CRAZY KITCHEN Lab
クレイジーキッチンの思考
<杏理さんに聞いてみた 最終回>「サステナブル」が企業のリトマス試験紙になる時代
オーダーメイドケータリングや食のプロデュースを手掛ける「CRAZY KITCHEN」。
パーティーから起業イベントまで幅広い食の提案を行う会社ですが、何よりも他社と違う点は、「サステナブル」という視点をケータリングに活かしていること。このジャンルの重要性に気づき、着手したのは2019年。以来、それらを活かして事業を展開してきました。
サステナブル漁業や畜産業との取り組みの話に続き、未来につながる農産物についても語ってくれた「CRAZY KITCHEN」主宰者、土屋杏理さん(以下、杏理さん)。12回目、最終回となる今回は、昨今起こった騒動と現在の立ち位置についての話です。フードジャーナリストの山口繭子がまとめます。

100社以上の企業がサステナブル認証を失った日
2024年秋からスタートしたこの連載も、いよいよ今回が最終回です。毎回、「CRAZY KITCHEN」主宰者の杏理さんから仕事を行う上でのさまざまな思いや夢、ケータリング企業、特に連載中盤からは「サステナブルケータリング」という、ある意味、特殊ジャンルにおける醍醐味やメリットについてたくさんのインタビューを行いました。あくまでも個人的な思い込みではありますが、私、サステナブルというジャンルについて、以前と比べるとかなり詳しくなれたと自負しています。
しかしその一方で、「サステナブルな食」というのが現在の日本でどれほどサステナブルでないものかについても、実感することが多かった……。連載最後の取材でも、初っ端に聞いた話はまさにそんな話でした。
「『CRAZY KITCHEN』を創業して今年で10周年ですが、先日、取引先の企業が債務不履行になってしまったんです。こんなことは初めてでした。その会社はシーフードジャンルにおける世界的なサステナブル認証の国内代行を行なう企業。この会社を通じて弊社もとある認証を取得していたのですが、ここが債務不履行、要するに事業を継続できないということになった際、一斉に関係各社には通達が来ました。曰く『この件がクリアになるまで、取得されたサステナブル認証は無効となります』と。つまり、使ってはならないということなんです。これにはちょっと驚きました」(杏理さん)
そんなことが起こるなんて予想外!……というのは、杏理さんの会社だけではありません。この会社を通じて認証を取得していた企業は、国内の全取得企業の実に三分の一ほどであるといい、今この記事を書いているのは債務不履行の話が関係各社に通達されてから1ヶ月半ほどが経過した後なのですが、現在も再開の見通しは立たない様子。つまり、100社以上もの企業がこれまで自社が販売や展開をしている商品について「@@@認証取得済み」というサステナビリティーを謳ってアピールできていたものが、一切禁じられてしまっているというのです。
「サステナブル認証には、漁業から畜産業、農業に至るまですごくたくさんの種類、団体があって、今回はその中のほんの一部のことではあります。しかし、認証取得のために皆、毎年安くない代金を支払っているわけです。そのくらい、食品が正しく道理的に製造されたり捕獲されたり生育されたりしたものであるかはセンシティブな問題だから。なので、そのクオリティーを担保するチェック機関や品質保持を確認する企業には大きな責任があります。それが今回、どこかの段階で遵守されていなかったと発覚したわけですから、これは由々しき問題です。幸い、現在のところ弊社のケータリング業に支障は出ていませんが、認証制度ってこんなにも脆い一面があるのかと愕然としました」(杏理さん)
ア フターコロナ、時代は徐々に変化している
2015年に「CRAZY KITCHEN」で起業した杏理さん。元々は、それまで勤めていたウエディングカンパニーで培った経験、特にオーダーメイドケータリングの重要性を感じ、もっと特化したサービスができる企業が必要と一念発起して立ち上げた会社でした。
その後、もともとヘルシー志向や食の安全性についても意識の高かった杏理さんは、自らが展開するケータリングサービスの一部をサステナブル関連にフォーカスしたものにしたいと考えます。それが2019年のこと。冒頭の写真はちょうどその頃の杏理さんで、多彩なケータリング仕事をこなしつつも、徐々に自分の中にある“核”のようなものを見極め、未来に向かってそこに注力していこうと決意し始めた時期でした。
そ こからの活躍については、この連載の初期にも詳しく触れています。サステナブルな食材のみを用いて展開するケータリングメニュー「サステナブルコレクション」をリリースしましたが、時を同じくして世界的な新型コロナウイルス感染症が爆発的に広まったこともあり、新しいコレクションは実質停止状態に。しかし、杏理さんはコロナ禍があったからこそ、世の中の食に対する関心も高まったのではないかと話します。
「エッセンシャルワーカーの方々のご苦労を心から考えたり、食のあり方を深掘りして考えるようになったり。“STAY HOME!”って、全世界の人々がSNSやメディアで声をあげていましたよね。新型コロナウイルスは恐ろしいことでしたが、その一方で私たちはあの当時、本質的なものが何であるかを無意識のうちに考え直したんじゃないかと思うんです。今という安心感が明日には急に消えるかもしれないというのをリアルに体験しましたから」(杏理さん)
それがアフターコロナ時代を迎え、人々は自由に行き来したり外食を楽しんだりする喜びを再び手にしたわけです。喉元過ぎるとなんとやら。サステナブル思想やSDGsへの意識は日常のものになった感じもあるのですが、若干その情熱はおさまってきているのかもしれません。例えば、近頃印象に残った出来事といえば「令和の米騒動」でした。米の価格がどんどん、信じられない勢いで上がっていって、挙げ句の果てには“古古古米”を争うようにして買うとか。そしてそんな古い米のことを「鳥の餌に等しい」と言って顰蹙(ひんしゅく)を買った政治家もいました。十分、食べられる米なのに……。サステナブルな思想は、なかなか定着しないのだなと感じた出来事でもありました。
コロナ禍前後を通じ、淡々と自らが信じるサステナブルケータリングの理想を求めて、学び続けた杏理さん。その間、「サステナブルコレクション」は「CRAZY KITCHEN」の看板商品になりました。そんな時に起こったのが、前述の認証失効事件です。人々に認められるようになったかと思えば忘れられ、定着しかけたと思ったら覆すような事件が起こる。一朝一夕には成し得ないもの、それがサステナブルな世の中であることは杏理さん自身が最も痛感しているのかもしれません。
サステナブルを大切にする企業の特徴とは
しかし、そんな状況も俯瞰しつつ、杏理さんの表情はなぜか明るいのです。
「いろんなことが起きるんですけどね。でも、おかげさまで今ではうちが得意としているサステナブルジャンルを見込んでお仕事をくださる企業がたくさんいます。途切れることなくサステナブル案件のご発注をいただくうちに、気づいたことがあって。サステナブルを大切にしている企業って、大小関係なく特徴があるんです」(杏理さん)
それは何ですか?と聞くと、「自分たちのブランドを大切にしていること」だといいます。
「意外に思われるかもしれないんですけど、最初の打ち合わせの時なんかにあまり細かいことをおっしゃらない企業も多いんです。ご要望もそんなに高邁で理想ばかりをおっしゃるということもなくて。それでも、サステナブル関連のことになるととにかく意志が強いんです。経費がかさむことや手間や時間がかかることを伝えても『それでいいです。もう、やるということしか道はないから。うちの企業は時代をリードするサステナブル企業であると決めたし社会や株主にもそう表明している。なので、やるしかないんです』という具合で。私、そういう姿勢でいいんじゃないかと思います。逆に、全員が健全な思想を持ってサステナブルであることに興味津々というのは難しいですから」(杏理さん)
けれどその一方で、「ケータリングメニューの中の、とりあえず1、2品だけサステナブルを意識したものにしてくれない?」というようなオーダーにも、快く応えたいともおっしゃる杏理さん。要するに、「上層部が決めたからやるしかない」でも、「ちょっとだけ取り入れてみる」でもなんでもいいので、理想的な姿でなくてもサステナブルな社会の実現に取り組む人が増えるのが大切ということなのでしょう。
CRAZY KITCHENは「やり切ること」を重んじる
多くの企業や団体とサステナブルなプロジェクトに関わってきた杏理さんですが、そう言った経験を通してわかったことがあります。それは、サステナブル関連の事業をやり切ったからといって業績がアップするわけではないけれど、「やり切る力」を持つ企業はやはり他の面でも強いということ。そんな気づきを得た「CRAZY KITCHEN」自身は今、どんな思いを抱いているのでしょうか。
「うちの場合は小さな企業ですからね。サステナブルを大切にするというのは、ある意味会社の存在意義だと思って取り組んでいます。うちがそれをやらなくなったら、会社としてこの世にいなくてもいいと本気で思っているんです」(杏理さん)
そんな杏理さんは、2019年にサステナブルコレクションを初めて以来、辞めようとか手を引こうと思ったことは一度もないそう。今回の一部の認証失効については残念な気持ちもありますが、逆に「認証の価値」について改めて考え直すきっかけになったともいいます。
サステナブルに「サステナブル」を続けていく
「CRAZY KITCHEN」に出合い、この連載がスタートしてわかったのは、大規模ケータリングという仕事の醍醐味や面白さでした。特に杏理さんの場合は企業のキャラクターやメッセージ性、イベントの目的に応じて、フードやドリンクのみならず会場のすべてをデザインして訪れるゲストとクライアントであるホストの両方が満足できるようにするのがミッションです。1回1回がその日限りの特別なメニューとユニークなサービスで満たされており、そんなイベントが連日続くようなこともあるため、準備や後片付けも含めると心身ともに磨耗するようなハードな仕事です。
しかしそんな作業の一つ一つを夢中になってこなしていく杏理さん。そこに加えた新たな要素がサステナブルであり、杏理さんにとっては大好きなケータリング仕事にもう一つ、昔から興味津々だったジャンルをのっけてしまうということなので、どれだけ大変だったとしてもやはりそこには辞められないだけの愛と理由があります。
「仕事が大好きで、サステナブルな食への興味が後から後から溢れてくる」と杏理さん。
まさにこれこそが、サステナブルに目の前のサステナブル案件に取り組み続けられる原動力なのだと心から感じます。
10年前の私と10年後の私の共通点は“学び”
「CRAZY KITCHENを始めた時、私は32歳でした。10周年を迎えた今年42歳で、10年後は52歳。その時どうしているかわからないものの、それでもやはり何かを続けていると思います。ただ、形は変えているんじゃないかな。32歳でアウトプットするものが52歳になっても同じだとは思えませんからね。あ、でもいい意味でということですよ? がむしゃらに仕事一筋に突っ走ってきましたが、40歳を前に長男が産まれました。もうこの子には愛しさしか感じられないくらい大切な存在ですが、同時に、妊娠・出産・子育てをしつつ働き続けることの大変さも知りました。精神的というよりは、純粋に体がもたない!と思う瞬間が多々あって。ただ、それを知ったことで、どうすれば続けられるだろうとようやく自然に考えられるようになったなぁとも思うんです。何が起こっても、学べるんだな、と」(杏理さん)
聞けば聞くほど、クレイジーどころかクレバーだったCRAZY KITCHEN。今後、どんな花を咲かせてくれるのか、期待が尽きません。
長くお読みいただき、ありがとうございました。
文/山口繭子
神戸市出身。『婦人画報』『ELLE gourmet』(共にハースト婦人画報社)を経て独立。現在、食や旅、ライフスタイル分野を中心にディレクションや執筆で活動中。https://www.instagram.com/mayukoyamaguchi_tokyo/
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